仕事だけでなく個人的なことも含めて,
日々のできごとや雑感をとりとめもなく綴ることにしました。

2019年ノーベル物理学賞
ナンモリ通信 2019.12.27 号   writer:別所

年の瀬も押し迫ってまいりました。弊社は本日で仕事納めです。今年は小学校算数の改訂の年でした(まだ続きますが)。私も後の方の工程で校正をしたりしたのですが,「算数ってこういう順で習っていくのか」と いうのが面白かったです。順々に積み重ねていく,世界が広がっていく感じがしました。また,「甥っ子や姪っ子もこういう教材で頑張って勉強してるんだなぁ」と思うとウルッときました。

今年最後のナンモリ通信ではノーベル物理学賞のお話をしたいと思います。今年のノーベル物理学賞は,「物理的宇宙論における数々の理論的発見」に対してジェームズ・ピーブルズに, 「系外惑星の発見」に対してミシェル・マイヨールとディディエ・ケローに授与されました。前者は宇宙の理論に関する研究,後者は宇宙の観測に関する研究です。

「物理的宇宙論における数々の理論的発見」からお話しますと,宇宙論というのは宇宙全体の進化についての理論です。例えば,宇宙は膨張していますが,この宇宙の膨張も宇宙論の範疇です。 他には,ビッグバンやインフレーションも宇宙論の話です。ピーブルズはこの宇宙論という分野で多くの研究をしました。宇宙論を学ぶときに必ず勉強する内容の多くがピーブルズの仕事です。 一例を挙げますと,宇宙マイクロ波背景放射(CMB)というものがあります。CMBを観測すると,宇宙が誕生してから38万年頃の様子が分かります(その頃に放たれた放射だからです(※))。 CMBの観測からは宇宙についての様々なデータが得られ,現代の宇宙論の観測において最も重要なものです。このCMBの存在を予言し,理論的な基礎付けを行ったのがピーブルズでした。 CMBから得られたデータで有名なものに宇宙の年齢が138億年というものがあります。宇宙の年齢が分かるなんてすごいですよね。

(※)
宇宙が誕生してから38万年頃までは,宇宙は高温で原子は陽子と電子に分かれていました。電子があるため,光は直進できず散乱されていました。しかし,宇宙が膨張ととともに冷えていき, 陽子と電子がくっついて原子ができると,光は邪魔されることなく直進できるようになりました。その直進できるようになった光が長い年月をかけて地球に届いているので, 宇宙が誕生してから38万年頃の様子が観測できます。空を見上げると雲の中は見えないけど雲の表面が見えるような,そんなイメージです。この光が直進できるようになったことを「宇宙の晴れ上がり」と言います。

次に,「系外惑星の発見」ですが,系外惑星とは「太陽系以外にある惑星」のことです。初めて系外惑星が発見されたのは1995年のことです。惑星は自分では光らないのでとても暗くて 発見するのが難しく,近年になるまで存在が確認されていませんでした(※)。系外惑星が発見されたことで,太陽系以外にも惑星があるんだということがわかりました。現在では約3000個の系外惑星が 発見されているのですが,太陽系とは異なる構造をもつ恒星と惑星のグループ(恒星系)もたくさん見つかっています。恒星系がどのようにできたのかについては様々な理論がありますが, これまではそれらの理論が正しいのかどうかを検証するサンプルが太陽系しかありませんでした。ところが系外惑星,太陽系以外の恒星系が発見されると,理論の検証に使えるサンプルが増えるので, 恒星系の形成理論をもっと精度よく改良することが可能になりました。

(※)
系外惑星を発見する方法の1つに恒星の前(恒星と地球の間)を惑星が横切るときにできる影を観測することで発見する方法があります。遠くにある恒星を観測する必要があるので, 高性能の観測機器が必要になります。

簡単にですが,今年のノーベル物理学賞についてお話してみました。どういう研究に対してノーベル賞が授与されたのかが少しでも伝わればいいなと思います。

今年は割と暖かい気がしますが,それでも体調を崩す方が多い年末に思います。年末年始休暇,ゆっくりとお過ごしください。よいお年を。

(別所)